訴訟準備書面(取引の分断)

平成●年(●)第●号 不当利得返還請求事件
原 告   ●●●●
被 告   ●●株式会社

第1準備書面
(原告)

20○○年 ●月●日

札幌地方裁判所 民事○部 御中

原告訴訟代理人
弁 護 士     川 﨑 久美子

第1 個別取引で計算すべきという被告の主張に対する反論
(1)本件金銭消費貸借契約において基本契約が存在すること、(2)本件金銭消費貸借契約は1つの連続した貸付取引であること、(3)本件金銭消費貸借契約は「事実上」1個の連続した貸付取引であること、のいずれかに本件金銭消費貸借契約が該当することからすると、本件金銭消費貸借契約において過払金の額を計算するにあたっては、原告が主張するような一連の計算方法による充当の合意が存在すると言うべきである。そのため、本件取引は一連の取引として計算がなされるべきである。

 1 本件金銭消費貸借契約は基本契約がある場合に該当すること(最高裁判所第1小法廷平成18年(受)第1887号・損害賠償等請求事件・平成19年6月7日判決)(主張1)
(1)同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において、借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い、この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合、この過払金は、当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するのが相当である。これに対して、弁済によって過払金が発生しても、その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には、上記過払金は、その後に発生した新たな借入金債務に当然に充当されるものということはできない。しかし、この場合においても、少なくとも、当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するときは、その合意に従った充当がされるものというべきである。そして、基本契約がある場合には、基本契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果、過払金が発生した場合には、上記過払金を、弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより、弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。(以上につき、最高裁判所第1小法廷平成18年(受)第1887号・損害賠償等請求事件・平成19年6月7日判決参照)
(2)以上を本件について見ると、本件取引については最初の契約時に契約書・申込書等の書類が作成された以降に具体的な契約書・申込書等の書類が作成・提出された事実について被告からの主張・立証はない。したがって、本件取引はいわゆる基本契約が締結された場合に当たると言える。
(3)とすれば、基本契約がある以上、債務の弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意が原告・被告間にはあるというべきである。そのため、本件取引は一連の取引として計算されるべきである。

 2 本件金銭消費貸借契約は1つの連続した貸付取引であること(最高裁判所第1小法廷平成18年(受)第1534号・不当利得返還請求事件・平成19年7月19日判決)(主張2)
万が一、本件金銭消費貸借契約が基本契約がある場合に該当しないとしても、本件金銭消費貸借契約は1つの連続した貸付取引である。
(1)金銭消費貸借取引において、(ア)従前の貸付けの切替え及び貸増しとして、長年にわたり同様の方法で反復継続して行われていたこと(イ)取引に空白期間がある場合であっても、前回の返済から期間的に接着し、前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われた場合には、金銭消費貸借契約は1つの連続した貸付取引である。そして、1個の連続した貸付取引においては、当事者は、1つの貸付けを行う際に、切替え及び貸増しのための次の貸付けを行うことを想定しているのであり、複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望まないのが通常であることに照らしても、制限超過部分を元本に充当した結果、過払金が発生した場合には、その後に発生する新たな借入金債務に充当することを合意しているものと解するのが合理的である。(以上につき、最高裁判所第1小法廷平成18年(受)第1534号・不当利得返還請求事件・平成19年7月19日判決参照)
(2)以上を本件について見ると、本件取引において取引空白期間は●日に過ぎない。
(3)とすれば、本件金銭消費貸借契約が1つの連続した取引である以上、制限超過部分を元本に充当した結果、過払金が発生した場合には、その後に発生する新たな借入金債務に充当することの合意があるのである。そのため、本件取引は一連の取引として計算されるべきなのである。

 3 本件金銭消費貸借契約は事実上1個の連続した貸付取引であること(最高裁判所第二小法廷平成18年(受)第2268号・不当利得返還等請求事件・平成20年1月18日判決)(主張3)
万が一、本件金銭消費貸借契約が基本契約がある場合に該当せず、かつ、本件金銭消費貸借契約は1つの連続した貸付取引にも該当しないとしても、本件金銭消費貸借契約は「事実上」1個の連続した貸付取引である。
(1)同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが、その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合において、第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができるときには、第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するものと解するのが相当である。(以上につき、最高裁判所第二小法廷平成18年(受)第2268号・不当利得返還等請求事件・平成20年1月18日判決)
(2)そして、具体的な判断基準としては下記の要素を考慮して判断をなすべきである。
(ア)第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が行われた期間の長さ
(イ)各基本契約に基づく最終の弁済から各基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
(ウ)各基本契約についての契約書の返還の有無
(エ)借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
(オ)各基本契約に基づく最終の弁済から各基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況
(カ)各基本契約が締結されるに至る経緯
(キ)各基本契約における利率等の契約条件の異同
(ク)取扱支店の同一性
(ケ)顧客番号が枝番を含めて同一であったこと
(コ)利率の移動
(以上につき、(ア)から(キ)までは上記最高裁判決参照、(ク)から(コ)までは上記最高裁判決の原審参照。なお、上記要素を考慮して検討する場合には、利息制限法の強行法規性、経済的弱者である借主の権利擁護という社会的要請等の価値判断を十分に反映した判断がなされるべきである。)
(3)以上を本件について検討すると、以下のように本件取引は事実上1個の連続した貸付取引であるとしか考えようがない。
(ア)第1の基本契約は●年と長期間である。
(イ)各基本契約間の空白期間は、●日の短期間である。
(ウ)各基本契約の終了に際して契約書等が返還されたという事実は証拠上存在しない。
(エ)カードについて各基本契約の終了に際し失効手続きがとられたという事情は証拠上存在しない。
(オ)各基本契約の終了後、その後の基本契約において、貸付の勧誘は被告からなされているかどうかは原告の記憶はあいまいである。
(カ)第1の基本契約の終了後、その後の基本契約において、被告からの申し出により貸付がなされているかどうかは原告の記憶はあいまいである。
(キ)各基本契約において、契約条件に変更が生じたというような事情は証拠上存在しない。
(ク)各基本契約において、取扱支店が変更したというような事実は証拠上存在しない。
(ケ)各基本契約において、会員番号は同一である。
(コ)各基本契約において、利率が変更されたとの事実は証拠上は存在しない。
(4)以上の点を考慮すると、本件取引は事実上1個の連続した貸付取引である。したがって、第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するのである。そのため、本件取引は一連の取引として計算されるべきなのである。

第2 取引の個数についての結論
   以上からすると、(1)本件金銭消費貸借契約において基本契約が存在すること、(2)本件金銭消費貸借契約は1つの連続した貸付取引であること、(3)本件金銭消費貸借契約は「事実上」1個の連続した貸付取引であること、のいずれかに本件金銭消費貸借契約は該当する。そのため、本件金銭消費貸借契約において過払金の額を計算するにあたっては、原告が主張するような一連の計算方法による充当の合意が存在すると言うべきである。したがって、本件各取引を一連の取引として本件取引を計算すべきなのである。

以 上

 

 

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